退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】川口マーン惠美『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』

読後、「え、8勝2敗で日本の勝ちだったの?」と思った。どこで勝敗つけたのかさっぱり不明。少し前に話題になった〈メニュー偽装事件〉に匹敵する釣りだった。しかし最後まで興味深く読めた。

住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち (講談社+α新書)

住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち (講談社+α新書)

前半は「アルザス地方と尖閣諸島を絡めた領土問題」、「福島原発事故を受けてのドイツの脱原発政策」といった時事ネタ。後半は労働、教育、社会サービスを通して見た日独の比較社会論的な内容である。

もっとも驚いたのは「ドイツの鉄道は遅れる上にサービスが悪い」ということだ。ドイツ人のモットーは時間厳守と思っていたが、どうやら思い込みだったようだ。しかも払い戻しや車内環境などの鉄道のサービスもサイアクとのこと。それに比べると日本の鉄道はすばらしい。まあ最近、日本でも都市部では人身事故などでよく遅れるようになったが……。

また「ドイツで小学五年生で進路が決まる」という教育制度も興味深い。ドイツの学校制度は4年間の一斉教育のあと進路は3つに別れる。大学に進学しアカデミアを目指すギムナジウム、職人になる基幹学校、その中間の子供がいく実業学校である。近年は技術革新で職人の地位が低下して人気薄だが学校制度はそのまま放置されていて、早期に落ちこぼれとされた子供たちの通う基幹学校は荒れ放題らしい。

しかもこの学校制度は戦前から踏襲されていて時代に合わなくなっているにもかかわらず、エリート層の抵抗のため改革が進んでいないという。どこにでも既得権益層はいるものだ。それにしても戦後、日本の学制はGHQに破壊されたが、ドイツではそのまま維持されているのはどういうわけだろう。

終盤、EUの問題点と対比させながら日本のTPP参加に警鐘を鳴らしている。EUのなかのドイツと、TPPのなかの日本は立場が似ているのではという指摘は示唆に富んでいる。