退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】後藤直義・森川潤『アップル帝国の正体』

アップル帝国の正体

アップル帝国の正体

アップルが席巻した日本の産業界を検証して日本企業の良い点、悪い点を明らかにし、今後の日本企業のあり方を探ろうとする試みは、米国産の翻訳本にはないユニークな視点である。「日本企業は植民地化していた!」という刺激的なキャッチが目を惹く。

具体的には、日本の製造業、家電量販店、音楽産業、そして携帯キャリアといった業界ごとの章立てになっている。アップルに翻弄されて日本企業の関係者からの言葉には説得力がある。

特に製造業のセクションがおもしろい。なかに「日本全国に広がる"iFactory" - アップル向けの製品を作る工場たち」という図があり(p.68)、日本地図にアップルに部品を供給している工場がリンゴマークのでプロットされている。「こんなにあるのか!」と驚かされる。

最初はアップルという世界的な企業に、部品を納められるのは名誉だと喜んでいられない。日本の部品産業はアップルへの依存度を徐々に強め、かつては液晶で栄華を誇ったシャープですら、アップルからiPhoneiPad向けの受注がなくなれば、即座に経営が立ち行かなくなるほどの「依存症」となった。

アップルと部品メーカーとの間には圧倒的な力の差がある。つまり「アップルはシャープ以外からも液晶を調達できるが、シャープにとってはアップルに替わる顧客はどこにもいない現実」というわけだ。

大企業シャープですら植民地扱いしてしまうアップルにとっても、Tier-1と称し対等に取引きする強みを持った企業もあるらしいが、具体的にどことは書いてないのは残念。株を買いたいのに……。

全体的には『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』などの経済誌の特集記事の域を出ない。むしろ経済誌の図表が豊富なカラーベージで読みたい内容だ。

また本書で言及されていない分野としては、日本の出版界や映画産業といったコンテンツ産業に関心がる。iTunes Storeに翻弄された音楽産業と同様にアップルに支配されることになるのか。そうした分野にも紙面を割いてほしかった。続編に期待したい。