退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

中野京子『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 (光文社新書 366)

現在開催中の「ハプスブルク展」の予習になるかと読んでみた。同じ作者による、以前読んだ『怖い絵』と比べると、こちらはやや薄口な印象を受ける。掲載されている絵画がカラーになったのはうれしい。

読み進めていくにつれて、遠い昔、世界史の勉強に苦しんだことを思い出した。さすがに600年以上も欧州に君臨していただけあり、ハプスブルク家の逸話は世界の動向と密接に関連していて面白い。

いちばん強く感じたのは、やはり近親婚はダメだなということ。現代日本でも近親婚でも禁止されているが、生物的にも合理的な理由があるのだということがよくわかる。本書を読んでいても、王族間の婚姻関連の複雑さ、または血の濃さには眩暈がする。そもそもハプスブルク家はカトリックの宗主を自ら任じていたのにもかかわらず、近親婚を繰り返していたことになる。よく教会が黙認したなというのが、いまもってよくわからない点である。

勝手にエピソードのなかからトップ3を選んでみた。

とくに興味をもったのは、上の「ルドルフ二世」の肖像画。この野菜や果実から成る肖像画は有名であるが、これは後世に描かれたものとばかり思っていたが、ルドルフ二世本人からの依頼により製作された立派な宮廷肖像画であることがわかり驚いた。

また上のエリザベート皇后の肖像画も印象的。この絵画は、いま来日しており近いうちに六本木に見に行く予定である。当時、既に写真が普及していて、エリザベート皇后の写真も残っている。それでも皇后といえば、この肖像画が思い起こされるのは、ミュージカルの影響であろうか。それにしても写真をみると、まったく美化の必要がないほどの美貌だったのはすごい。この肖像をみると、宝塚などで日本人が演じるのが、やや滑稽に思える。

本書は、ハプスブルク家に関連する絵画に着目して、それを年代順に眺めていくことで、ある時期の欧州史を概観できる。この手の教養型エッセイを読むと感じることだが、もっと知識があれば美術をもっと楽しめるとうことであり、自分の浅学を残念に思う次第。