退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

中本千晶『なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか』(小学館、2009年)

なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか (小学館101新書)

なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか (小学館101新書)

宝塚歌劇団」は今年、創立95年を迎えた。世界でもユニークな女性だけが演じるエンターテインメント集団が、100年近くの長きにわたりファンを魅了しつづけるのはなぜか、という疑問に初心者にもわかるように論理的に答えてくれる。読みやすい。

でも写真が一切ないのは不満。銀橋やシャンシャンや劇場の様子は写真で示せば一目瞭然だろうし、キッチュな舞台の様子も写真で示してほしいところ。

冒頭、「男がタカラヅカを見る10のメリット」(p.13)という章がある。そのなかで、「人脈が広がる」「モテる」などとあるが、これほど打算的なのはどうかと思うし、カミングアウトするリスクの方が大きいかなと勘ぐってしまう。まあ、「とりあえず元気が出る!」という効用をこっそり享受するぐらいがいいのだろうか。

次に「娘役変遷論」(p.136)も興味をもって読んだ。マーケットに男性を取り込むには、やはり男性の目に魅力的に映るかを考える必要があろう。しかし、この本に説明があるように、主演娘役に注目するのは、大半が主演男役のファンである女性であるため、主演男役との間で「ベストカップルになりえるか」という点が重要視される。そうしたまるで姑のような選定基準と、男性が魅力的だと感じる基準との間には当然乖離があるだろう。

マーケットに男性を呼び込むカギのひとつは、この課題を解決することかもしれない。主演娘役のほかに多様な娘役を配してニーズに応えることもできるだろうが、いかんせんすべての演目が、主演男役を中心に構成されているからどうしようもない。また「多様な娘役」というのも、最近、娘役の層がめっきり薄くなったという気がするのは私だけだろうか。歌ウマが少なくなってさみしい。

この本のなかで「ジャパンキッチュなタカラズカ」(p.184)のあたりが一番おもしろかった。宝塚がキッチュ(kitsch)なセンスに溢れているというのは、なかなかの卓見である。ただ、この指摘もビジュアルによる説明がないと読者には伝わりにくいかも――。それでも、ファンのなかには、はたと膝を打つ人も少なくないだろう。

余談だが、kitschという語について少し調べてみた。この語は英語になっていて、スペルから想像できるようにドイツ語(kitschen)を起源にもつ。辞書を引くと、「俗受けのする芸術;ごてごてと飾りたてたもの,げてもの」などといった語意がある。ただ、ランダムハウス英語辞典には、「本来は低俗な作品をさしたが,最近は肯定的にも評価される」とあり、さすが、ランダムハウスというところ。