退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『グラン・トリノ』(2008)

早稲田松竹で「グラン・トリノ」(2008年、クリント・イーストウッド)を観る。封切り時に見逃し、名画座でもこれまでタイミングが合わなかったが、ようやく観ることができた。

グラン・トリノ [DVD]

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意外にオーソドックスな映画だったというが第一印象。映像的な遊びも少ないし、ストーリーにヒネリもないが、すぐれた役者と脚本には小細工は要らないのだろう。鑑賞後、豊穣な余韻とともに、ああ映画を観たなと思わせる。ベタだけれど、クリント・イーストウッドが西部劇を思わせる英雄に昇華するところは見事。

米国自動車産業の凋落などの産業構造の変化、移民問題、そして銃規制など、現代のアメリカが直面する問題が織り込まれているのもうまい。

出演者では、クリント・イーストウッドのほかには、モン族の少年スーの姉・アーニー・ハー(Ahney Her)がいい。本作が映画デビューとのこと。今後に注目したい。

この映画はクリント・イーストウッドの集大成と言われる。「ダーティハリー」を始めする、彼のこれまでの映画を彷彿させるシーンが随所に見られるのは心憎い演出だ。歌謡曲でいえば、最後のシングル曲にこれまでのヒット曲のモチーフを挿入するようなもので、例えば、キャンディーズの「微笑みがえし」、ジューシィ・フルーツの「恋は何でも知っている」といったところか。

やや余談になるが、アメリカの銃社会はあいかわらずひどい。この映画でも、朝鮮戦争からの帰還兵のクリント・イーストウッドが家からM1ガーランドを取り出したり、チンピラがサブマシンガンを乱射するなど想像を絶する。核廃絶を唱える前に自国の銃をなんとかしろといいたい。