退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『タクシードライバー』(1976)

テアトルタイムズスクエアで「タクシードライバー」(1976年、マーティン・スコセッシ)を鑑賞する。テアトルタイムズスクエアの“閉館特別上映”のなかの一本。

ロバート・デ・ニーロが演じるタクシーの運転手・トラビスの狂気が怖すぎる。ヴェトナムからの帰還兵という設定らしいが、冒頭、よく運転手に採用されたものだ。最初から正常じゃないから、普通雇わないだろうに。

そして好きな女を堂々とポルノ映画に誘ったり、体を鍛えて鏡の前でホルスターの拳銃を構えて悦に入るなど、トラビスはとことん狂っている。まあ彼が狂っているのと同時に、社会も狂っているとも言えるかもしれない。それでも決して付き合いたくないタイプの人物だが。

終盤、トラビスは娼婦宿に乗り込んで、ジョディ・フォスターが扮する少女売春婦を救出するが、あれだけのことをしても「正義の殺人」として許され、あまつさえ英雄として賛美されるのだから驚きだ。最初にこの映画を観たときも、これがアメリカの感覚なのかなと違和感を覚えたが、それは今回も同様である。

この映画の簡素な構成と技巧的な映像による表現力は圧倒的だ。これほど大都会の孤独感や焦燥感を表現できた映画はあまりない。決して後味のいい映画ではないが、映画史に残る作品である。