- 作者: 斎藤貴男
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2009/04/11
- メディア: 単行本
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筆者は本書のなかで、自殺について取材・執筆するのは苦しいと吐露しているが、読者も同じことだ。読んでいて鬱々した気分になる本である。
ただ冒頭で日本は「自殺大国であると警告を鳴らすが、年間3万人超という数字がどれほど正確、また深刻であるということがあまり議論されていないように思う。この本にもあるように、わが国の統計データの採取方法には改善の余地があり、当局の思惑で簡単にデータが左右されるという。そうしたデータと他国のデータを比較することができないだろうし、自殺大国日本と煽るのは公正ではないように思う。
しかしながら、自殺の個別の事例を読んでいくと、自殺者はそれぞれ酷い状況にあったことがわかる。これを安易に社会構造に問題があるとは言いたくないが、体験的に感じる昨今の社会の変化と無縁とも言い切れない気もする。とくに印象に残ったのは、郵政民営化にまつわる事例である。元々は公務員として競争原理とは無縁でありたいと就職してきた人たちが、民営化の名も下に過酷な状況に置かれていまっているとう現実は、ある意味皮肉である。
読み進めるにつれて鬱積した思いが募っていく本であるが、こうした行き詰まった状況に対処しようとする市民レベルのネットワークが、少しずつ機能しつつあるのは光明を見た思いがする。まだ世の中も捨てたものではない、と感じた。