退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『おかあさん』(1952)

シネマート新宿で、「おかあさん」(1952年,成瀬巳喜男)を鑑賞する。小学生の作文を脚色した作品。新東宝特集でこの作品を選ぶとはなかなかの慧眼。少し地味ではあるが、戦後復興期の庶民の家庭の様子が真摯に描かれていて、成瀬の隠れた秀作といってよい。

まず母親役の田中絹代が演じる普通のおかあさんという演技がすばらしい。日本人が描く母親像というのは、こういうものなのかと思わせる。次に長女役の香川京子は闊達な娘を演じていて魅力的、花嫁姿の披露しているのも見どころ。さすがに美人。さらに子役たちもいい。そして家族だけでなく、親戚や近所のつきあいも丹念に描かれているので、かっちりした仕上がりになっている。

当時は、戦争の傷跡は癒えておらず、驚くほど貧しい。実際、長男や父親は十分な医療を受けられずに病死する。そうしたなかでも、復興に向けての力強さを感じさせられる。やはり「母は強し」ということか。最近のレトロブームの映画にはない、その時代のもつ迫力を実感できる。

劇中、電車に乗って向ヶ丘遊園に遊びにいくシーンがある。すると舞台は小田急沿線なのかと思いながら見ていた。この映画の映像は半世紀以上前のものだが、よくこれだけ復興と遂げ、繁栄を築いたものだと、先人たちの労苦をあらためて考えてみた。