退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

岸本佐知子『ねにもつタイプ』

エッセイ48編。エッセイストで岸本といえば、まず勝手に岸本葉子を思い浮かべる。彼女のエッセイは、「シングル」「健康」「食事」などを題材とした日常的で、読んでいて筆者の生活が想像できる内容である。この前もシンクのスポンジを買い替えたことを取り上げていた。ま、いわゆる日常エッセイだ。

これとは対照的に、本書は、非常に内面的というか、筆者の妄想ぶりが炸裂する刺激の強いエッセイ集となっている。大変おもしろい。筆者は翻訳を生業としており、英文と格闘しているシーンも描かれているが、いつのまにか遠くに連れていかれているのが心地よい。あまり生活臭がいないのもいいのかもしれない。

ねにもつタイプ

ねにもつタイプ

もともと、雑誌「ちくま」に連載していたものらしいが、やはり少しずつ読むのがいいようだ。今回は思わず2日ぐらいで通読したが、これはおそらくオーバードーズであろう。残念なことしたかもしれない。

妄想とは別に、えぇと思ったことがある。OL時代のエピソードのなかで宴会要員として本格的にダンスと奮闘する場面である。さすがにサントリー(本書には洋酒メーカーとあるが)はすごいなと思った。『窓際OL トホホな朝ウフフの夜』で読んだとおりだなと妙に感心した。社風というべきか。

クラフトエヴィング商會の挿絵と装幀もすばらしいです。実際に手にとってほしい。